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スイーツ・スイーツ

第3章 攻防戦の果てに

……理恵子の日記つづき……

ふと、廊下に白いものがあるのに気づいた。
なんのことはない、私が持ってきたお見舞いのケーキの箱だ。
自転車だから崩れにくいものを選んできたが、若葉がぶつかったショックで床に叩きつけられたのだから、中身はだいたい想像できた。

ひらめいた。

私は箱を拾い上げ、若葉につかつかと歩み寄った。

「ちょっと、どうしてくれるのよ!」

謎の箱をつき出す怒りの第三者の突然の乱入に、思わず泣き止む若葉。
きょとん、という表情が漫画だった。

「食べていいの?」
ストップモーションを破ったのは、佳奈恵だった。

そりゃもちろん、佳奈恵の見舞いなんだから。

そして当意即妙。私には彼女の意図がわかった。

私が箱を差し出すと、佳奈恵は、手づかみでバナナタルトを口に入れたのだ。(やっぱり)
フォーク、と誰かが叫んだ。
談話室に水屋(作者注:食器棚のことです)があることは知っていたが、この場合はこれでいい。

タルトを胃に送りこんだ佳奈恵は、鏡を所望した。

陸上部のくせに(作者注:失礼だな)手鏡を持っていた部員が佳奈恵に渡してやる。
佳奈恵は、鏡を覗きこんで、たちまち破顔一笑した。

そりゃそうだ。
彼女の顔はクリームだらけ。昭和の罰ゲームそのもの、PTAからクレームがつくレベルだった。

すかさず、私も笑いに加わる。

一人、また一人、笑いの輪が広がる。

こうなると、若葉も、参加してもらうしかない。

商品名は覚えてないが、とにかくクリームたっぷりのケーキを若葉の口に突っ込んでやった。
ハンカチに続いてケーキまで突っ込まれる、かわいそうな口だった。

爆笑が、手をつけられないデシベルに達した。

私のせいだろうか。

あとで、看護師から代表として、クラス委員長である私が怒られた。

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