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ねこざめ【3ページ短編】

第1章 新しい仕事


アーラは宇宙船の船員だ
宇宙船は大きな会社のようであり、小さな国家のようなものだ
 使い捨ての最下層の船民“ワーカー”は常日頃から油にまみれ、汚染物に囲まれながら働いていた

職場の先輩ニコシェは同じワーカー同士なのにも関わらず、支配階級の船民“コントローラー”たちから受ける階級差別の鬱憤を後輩のアーラにぶつけていた

直属の上司ストリンはそれも知っているので余計にニコシェには厳しく、ニコシェの苛立ちが幼いアーラに向けられ悪循環となっている

抑圧された宇宙船の暮らしの中で、アーラの小さな喜びと言えば、週に一度隔離された研究施設、の清掃を指示されるわずかな時間だけだ

隔離施設は“コントローラー”たちの実験研究室で本来ならワーカーたちは立ち入れない区画だ

水で満たされた巨大な円柱形の水棲カプセルユニットがいくつも立ち並ぶ

そこは長期間宇宙船で暮らすための糧となる生産物の研究が日頃から成されているのだけれど、見たこともない動物が入れ替わり立ち代わりカプセルに入れられ、眺めているだけでも楽しい気分になるのだ


今日も床のモップ掛けをしていたら、新しい研究対象を見つけた

茶色くてフワフワ
小さな動物のようだ

「おい、ワーカーの小僧!手を休めてないで働け!この無能な猿が!
 ん?なんだ、アーラか!
 どうした?気になるか?
 これは“ネコ”というものだ
 むかしむかし地球で可愛がられていた愛玩動物のうちのひとつだ
 裕福な富裕層には愛玩動物のリクエストが多くてな
 常に新しいものを開発、提供しなければ予算が降りないんでこういう仕事もしたりする
 いつもの豚や魚よりも愛くるしいだろう?
 さぁさぁ、見ているのはそれぐらいにして仕事に戻りたまえ」


いつもは厳しいストリンが妙に優しい
いや、彼が厳しく当たるのはアーラにではなく、いつもニコシェに対してばかりであった
 そんなワーカー達に厳しいストリンも、この愛くるしい動物を見ていると心が安らぐらしい

アーラは元の汚い仕事に戻らされるのではないかと焦り、いつも以上に熱心に清掃作業をこなした


前にここの担当だった茶色い髪の毛の女の子はいつしか居なくなってしまい、アーラにここの仕事が回ってきたのはラッキーだった

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