
Kalraの怪談
第61章 新・第六十一夜目:さくらの精
【さくらの精】
僕がこれを体験したのは、10年ほど前の春のことでした。
このころ、僕はある地方の大学に通っていました。
根があまり明るい方ではなく、人付き合いも苦手だった僕は、いきおい友達作りがなかなか出来ず、別にハブにされているわけではないものの、同級生はサークルのコンパをしたり、彼女や彼氏を作って楽しく過ごしている中、休日等はひとりで過ごすことがほとんどという、孤独な青春を過ごしていました。
冒頭に述べた体験をしたのは、僕が二回生のときだったと思います。
春先、桜が満開になり、ハラハラと散り始めた頃でした。学生たちはお花見だ、ドライブだと騒いでいる中、僕はやはり一人ぼっちでした。
それでも桜を見ようと、人がいないところを探して自転車でぐるぐる彷徨っている内に、日が暮れ初めてしまいました。その頃になってやっと、大学の北の方、あまり人が来ないところに見事な枝ぶりの桜を見つけることが出来たのです。もう、あたりは真っ暗でした。しかし、その桜の木の近くにはおあつらえ向きに街灯があり、その白銀の光がぼんやりと満開の桜を夜空に浮かび上がらせていました。
夜桜見物になったけど、これはこれでいいか。
そう思いながら、僕は近くにあった大きな石に腰を下ろし、桜を愛でながらスナック菓子を食べ、買ってきた炭酸飲料を飲んだりしたのです。
10分ほどぼんやりそうしていたでしょうか。あたりにさっと冷たい風が吹き渡りました。
そろそろ身体も冷えてきたし、帰ろうか、と思った時、不意に桜の木を挟んで自分と反対側に人がいることに気づいたのです。
ひとりじゃなかったのか。
僕は、急に恥ずかしくなりました。そして、その人・・・それはノースリーブの白いワンピースを着た女性だったのですが、に気づかれないうちにと退散しようと思ったのです。
自転車に乗ろうとした時、僕はちょっと気になって、女性の方を見ました。すると、女性もこちらを見ていたのです。
年の頃は20歳くらい。自分と同じくらいだと思いました。
その人はにこりと笑うと『上』、と一言言いました。
上?
僕がこれを体験したのは、10年ほど前の春のことでした。
このころ、僕はある地方の大学に通っていました。
根があまり明るい方ではなく、人付き合いも苦手だった僕は、いきおい友達作りがなかなか出来ず、別にハブにされているわけではないものの、同級生はサークルのコンパをしたり、彼女や彼氏を作って楽しく過ごしている中、休日等はひとりで過ごすことがほとんどという、孤独な青春を過ごしていました。
冒頭に述べた体験をしたのは、僕が二回生のときだったと思います。
春先、桜が満開になり、ハラハラと散り始めた頃でした。学生たちはお花見だ、ドライブだと騒いでいる中、僕はやはり一人ぼっちでした。
それでも桜を見ようと、人がいないところを探して自転車でぐるぐる彷徨っている内に、日が暮れ初めてしまいました。その頃になってやっと、大学の北の方、あまり人が来ないところに見事な枝ぶりの桜を見つけることが出来たのです。もう、あたりは真っ暗でした。しかし、その桜の木の近くにはおあつらえ向きに街灯があり、その白銀の光がぼんやりと満開の桜を夜空に浮かび上がらせていました。
夜桜見物になったけど、これはこれでいいか。
そう思いながら、僕は近くにあった大きな石に腰を下ろし、桜を愛でながらスナック菓子を食べ、買ってきた炭酸飲料を飲んだりしたのです。
10分ほどぼんやりそうしていたでしょうか。あたりにさっと冷たい風が吹き渡りました。
そろそろ身体も冷えてきたし、帰ろうか、と思った時、不意に桜の木を挟んで自分と反対側に人がいることに気づいたのです。
ひとりじゃなかったのか。
僕は、急に恥ずかしくなりました。そして、その人・・・それはノースリーブの白いワンピースを着た女性だったのですが、に気づかれないうちにと退散しようと思ったのです。
自転車に乗ろうとした時、僕はちょっと気になって、女性の方を見ました。すると、女性もこちらを見ていたのです。
年の頃は20歳くらい。自分と同じくらいだと思いました。
その人はにこりと笑うと『上』、と一言言いました。
上?
