
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第3章 接近~近づいてゆく心~
莉彩の問いに、王は小さな溜息をついた。
「そなたは憶えておるか? この世界に初めて来た時、そなたを荷車で轢きそうになった行商人風の老人を」
「はい、忘れも致しませぬ。観相をするとかどうとか言っておりました」
「あの老人のことがどうにも気になってな。あれからも度々、老人の言葉を思い出していたのだ」
―はるかな時を越えておいでになったお優しいお嬢さま。どうか、今、御髪に挿している簪を大切になさいますように。その簪は、お嬢さまとあちらの世界を繋ぐための大切な鍵にございますよ。
王はあのときの老人の言葉を繰り返した。
「莉彩、本音を言えば、私はそなたを元の世界に帰したくはない。しかし(ホナ)、自分の我が儘でそなたをここに引き止め、家族の待つ場所へと帰りたいと一途に願うそなたの想いを無下にすることはできぬ。それゆえ、私はけして、そなたに告げまいと思っていたことを今、ここで告げる」
王の声は苦渋に満ちていた。
「私が考えるに、この簪は、そなたが元の場所に還る大切な鍵になるのではないかと思うのだ。あの老人の言葉から察するに、彼は、そなたが時を越えてここに来たことを予め知っていたのだろう。観相をすると申しておったが、到底、ただの商人とは思えぬ風格のある老人だった。あの老人は莉彩が髪に挿している簪を大切にせよと言った。その簪が莉彩とあちらの世界を繋ぐための大切な鍵だとも」
「殿下、それは」
言いかけた莉彩に、王は真顔で頷いた。
「莉彩、その簪を身につけ、もう一度、あの場所に参れば良いのではないだろうか。時を飛ぶのに必要な条件、あるいは小道具が揃えば、時空に再び割れ目が生じ、こちらからあちらへと繋がる道ができるやもしれぬ」
駄目で元々、やるだけはやってみないか。
王の瞳は、そう語りかけていた。
「私は―どうやら、つくづく未練たらしい女々しい男らしい。そなたにこれだけ告げた後ですら、まだ、そなたを行かせたくない、帰したくないと心が訴えている。全っく、往生際の悪い男だ」
最後の科白は、唾棄するように言う。
莉彩は哀しくなった。
「そなたは憶えておるか? この世界に初めて来た時、そなたを荷車で轢きそうになった行商人風の老人を」
「はい、忘れも致しませぬ。観相をするとかどうとか言っておりました」
「あの老人のことがどうにも気になってな。あれからも度々、老人の言葉を思い出していたのだ」
―はるかな時を越えておいでになったお優しいお嬢さま。どうか、今、御髪に挿している簪を大切になさいますように。その簪は、お嬢さまとあちらの世界を繋ぐための大切な鍵にございますよ。
王はあのときの老人の言葉を繰り返した。
「莉彩、本音を言えば、私はそなたを元の世界に帰したくはない。しかし(ホナ)、自分の我が儘でそなたをここに引き止め、家族の待つ場所へと帰りたいと一途に願うそなたの想いを無下にすることはできぬ。それゆえ、私はけして、そなたに告げまいと思っていたことを今、ここで告げる」
王の声は苦渋に満ちていた。
「私が考えるに、この簪は、そなたが元の場所に還る大切な鍵になるのではないかと思うのだ。あの老人の言葉から察するに、彼は、そなたが時を越えてここに来たことを予め知っていたのだろう。観相をすると申しておったが、到底、ただの商人とは思えぬ風格のある老人だった。あの老人は莉彩が髪に挿している簪を大切にせよと言った。その簪が莉彩とあちらの世界を繋ぐための大切な鍵だとも」
「殿下、それは」
言いかけた莉彩に、王は真顔で頷いた。
「莉彩、その簪を身につけ、もう一度、あの場所に参れば良いのではないだろうか。時を飛ぶのに必要な条件、あるいは小道具が揃えば、時空に再び割れ目が生じ、こちらからあちらへと繋がる道ができるやもしれぬ」
駄目で元々、やるだけはやってみないか。
王の瞳は、そう語りかけていた。
「私は―どうやら、つくづく未練たらしい女々しい男らしい。そなたにこれだけ告げた後ですら、まだ、そなたを行かせたくない、帰したくないと心が訴えている。全っく、往生際の悪い男だ」
最後の科白は、唾棄するように言う。
莉彩は哀しくなった。
