
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第11章 Half MooN
本来なら玉座に座る至高の位にあるべき人の運命を、進むべき道を変えさせてしまった。そのことがどれほど重い罪で、どのような代償を払わねばならないのか。改めて考えてみただけでも怖ろしい。
明日は雨だろうか、半分だけの月は雲に閉ざされがちで、その影も朧に滲んでいる。
まるで克明には見えぬ月が未来を暗示しているようで、莉彩は胸騒ぎにかすかに身を震わせる。
「どうした、寒いのか。震えているぞ」
徳宗が莉彩の肩をそっと抱き寄せる。
「風が出てきた、そろそろ中に入ろう」
徳宗の言葉に、莉彩は嫌々をするように小さく首を振る。
「今はまだ、こうしてご一緒に月を眺めていとうございます」
六月初旬の夜は深く、風はまだひんやりとしている。莉彩は愛する良人の肩にそっと身を預け、夜空をいつまでも眺め続けていた。
徳宗が朝鮮第九代国王ではなく、ただ人の李(イ)光徳(カントク)となってから、五月(いつつき)。
熱い夏が終わり、都から離れた小さな農村にも秋が来た。澄んだ空気に山々がくっきり立ち上がり、樹々は鮮やかに色づく。
今のところ、都がどうなっているのかは判らない。ただ、国王が失踪したなどと大騒動にはなっていないことだけは確かで、考えてみれば、国王殿下が突如として姿を消すなどということ自体、あり得ないことだった。
大方、朝廷が今のところは何とか事をおさめているのだろう。現に、夏の終わりに、国王徳宗が篤い病の床にあるという噂がここまで流れてきた。
「直に大臣たちが図って、新しい国王を立てるだろう。そうなれば、私は本当に自由になれる。九代徳宗は病で亡くなり、この世から永遠に消える。私がいなくなっても、代わりは大勢いるのだ。王室には丁度良い頃合いの男子は山のようにおるゆえ、その中の誰かが十代目の王に擁立される」
徳宗はまるで他人事のように淡々と言った。その表情からは彼が玉座を棄てたことを後悔しているのかどうかまでは判らなかった。
そんなある日のこと、聖泰の遊び友達の一人である女の子が都にゆくことになった。都にゆくといっても、何も物見遊山に行くのではない。女衒に連れられ、妓楼に売られてゆくのだ。
明日は雨だろうか、半分だけの月は雲に閉ざされがちで、その影も朧に滲んでいる。
まるで克明には見えぬ月が未来を暗示しているようで、莉彩は胸騒ぎにかすかに身を震わせる。
「どうした、寒いのか。震えているぞ」
徳宗が莉彩の肩をそっと抱き寄せる。
「風が出てきた、そろそろ中に入ろう」
徳宗の言葉に、莉彩は嫌々をするように小さく首を振る。
「今はまだ、こうしてご一緒に月を眺めていとうございます」
六月初旬の夜は深く、風はまだひんやりとしている。莉彩は愛する良人の肩にそっと身を預け、夜空をいつまでも眺め続けていた。
徳宗が朝鮮第九代国王ではなく、ただ人の李(イ)光徳(カントク)となってから、五月(いつつき)。
熱い夏が終わり、都から離れた小さな農村にも秋が来た。澄んだ空気に山々がくっきり立ち上がり、樹々は鮮やかに色づく。
今のところ、都がどうなっているのかは判らない。ただ、国王が失踪したなどと大騒動にはなっていないことだけは確かで、考えてみれば、国王殿下が突如として姿を消すなどということ自体、あり得ないことだった。
大方、朝廷が今のところは何とか事をおさめているのだろう。現に、夏の終わりに、国王徳宗が篤い病の床にあるという噂がここまで流れてきた。
「直に大臣たちが図って、新しい国王を立てるだろう。そうなれば、私は本当に自由になれる。九代徳宗は病で亡くなり、この世から永遠に消える。私がいなくなっても、代わりは大勢いるのだ。王室には丁度良い頃合いの男子は山のようにおるゆえ、その中の誰かが十代目の王に擁立される」
徳宗はまるで他人事のように淡々と言った。その表情からは彼が玉座を棄てたことを後悔しているのかどうかまでは判らなかった。
そんなある日のこと、聖泰の遊び友達の一人である女の子が都にゆくことになった。都にゆくといっても、何も物見遊山に行くのではない。女衒に連れられ、妓楼に売られてゆくのだ。
