
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第11章 Half MooN
あのお金のお陰で、路銀ばかりか、この村で暮らしてゆくようになってからも随分と助かった。何しろ腕輪一つで庶民が一年は暮らしてゆけるだけの値打ちがある―と最初、小間物売りに腕輪を見せて聞いたときには、莉彩は仰天した。
大妃は莉彩を憎んでいたはずだ。なのに、気前よく莉彩にそのような高価な品を惜しみなく与えた。
―憎んでいたとしても、殿下は私の息子だ。
そう言った大妃の表情が今でも忘れられない。
遠いまなざし、どこか淋しげな口調だった。
多分、大妃も淋しかったのだろう。良人である前国王からは疎んじられ遠ざけられ、たった一人の娘さえ夭折し、誰にも心を開く人がいなかった。その淋しさが妬みという形となり、更には憎悪となって徳宗やその生母に向けられたのだ。
この村を落ち着き先に決めたのは、都から適度に離れていること、更には滅多と他所者が来ないことだ。この期に及んでも、莉彩は都から途方もなく離れた場所にゆくことはできなかったのだ。せめて徳宗の住まう都からさほどに離れてはいない場所で暮らしたいと願い、この小さな村の住人となった。
本当なら、大妃の言いつけを守り、都からはできるだけ離れた地方で暮らした方が良いのは判っていたのだけれど。
莉彩と聖泰が暮らすのは、村外れの小さな藁葺き屋根の家だ。煮炊きのできる小さな厨房と居間、寝室と三間ある。村長が賃貸ししているこの民家は、愕くほど安く借りられた。
莉彩はここで村の子どもたちに字を教えたりしながら、家の庭で自分と聖泰の食べる野菜を作り暮らしている。二匹だけだが、つがいの鶏も飼っていた。村は貧しく、皆が農民だ。子どもを学校に通わせるだけの金もなく、一家が飢え死にせぬようにするのが精一杯といったところだった。
莉彩は向学心はあるが学校に行けない子どもたちのために、小さな教室のようなものを村長の家で開き、字を教えた。親たちは貧しいため束脩(授業料)は払えないが、その分、自分たちで作った米や野菜をくれるので、莉彩はそれを収入に代わりにして息子と二人で慎ましく暮らしていた。
都で暮らす民たちも皆、生活苦に喘いでいるのを莉彩は実際にこの眼で見てきた。しかし、都から離れた農村では更に貧困は深刻な問題であった。
大妃は莉彩を憎んでいたはずだ。なのに、気前よく莉彩にそのような高価な品を惜しみなく与えた。
―憎んでいたとしても、殿下は私の息子だ。
そう言った大妃の表情が今でも忘れられない。
遠いまなざし、どこか淋しげな口調だった。
多分、大妃も淋しかったのだろう。良人である前国王からは疎んじられ遠ざけられ、たった一人の娘さえ夭折し、誰にも心を開く人がいなかった。その淋しさが妬みという形となり、更には憎悪となって徳宗やその生母に向けられたのだ。
この村を落ち着き先に決めたのは、都から適度に離れていること、更には滅多と他所者が来ないことだ。この期に及んでも、莉彩は都から途方もなく離れた場所にゆくことはできなかったのだ。せめて徳宗の住まう都からさほどに離れてはいない場所で暮らしたいと願い、この小さな村の住人となった。
本当なら、大妃の言いつけを守り、都からはできるだけ離れた地方で暮らした方が良いのは判っていたのだけれど。
莉彩と聖泰が暮らすのは、村外れの小さな藁葺き屋根の家だ。煮炊きのできる小さな厨房と居間、寝室と三間ある。村長が賃貸ししているこの民家は、愕くほど安く借りられた。
莉彩はここで村の子どもたちに字を教えたりしながら、家の庭で自分と聖泰の食べる野菜を作り暮らしている。二匹だけだが、つがいの鶏も飼っていた。村は貧しく、皆が農民だ。子どもを学校に通わせるだけの金もなく、一家が飢え死にせぬようにするのが精一杯といったところだった。
莉彩は向学心はあるが学校に行けない子どもたちのために、小さな教室のようなものを村長の家で開き、字を教えた。親たちは貧しいため束脩(授業料)は払えないが、その分、自分たちで作った米や野菜をくれるので、莉彩はそれを収入に代わりにして息子と二人で慎ましく暮らしていた。
都で暮らす民たちも皆、生活苦に喘いでいるのを莉彩は実際にこの眼で見てきた。しかし、都から離れた農村では更に貧困は深刻な問題であった。
