
ジェンダー・ギャップ革命
第6章 異性愛者差別
「愛津ちゃんみたいな乙女ばかりなら、ビラ配りも楽だっただろうな」
「えっ」
「お義母様の写真に、見惚れてるでしょ。良い感じに撮れてるけど、さすがに妬ける」
「いえっ、そんな……見惚れるほど美人だけどっ……あっ」
織葉が目を細めた。愛津が慌てるのを楽しんででもいる風だ。
彼女と二人一組でビラ配りに出たのは、三度目くらいだ。
昨年はビラ配りの担当そのものに当たらなかったが、こういう時、愛津は彼女の人気を目の当たりにする。今も例に漏れなかった。
「人間って、面食いな生き物なんだと思います。私だって、織葉さんのファンの人達に妬いてたよ。意味深に織葉さんを見ていた女の人達に、神対応してたんだもん……お仕事だって分かってても……」
「ドルヲタみたいな心理じゃない。愛津ちゃん、面白い」
「真面目に妬いてるのにっ」
もっとも、愛津にとってやきもちは、織葉の本心を詮索するための手段に過ぎない。彼女は部外者の女達と必要以上に接触しないし、相手にしてみればひとときの夢を見てしまいそうな対応でも、それだけだ。
愛津が垣間見せる好意は、織葉にどんな心象を残すか。
織葉が想いを寄せているという相手も、結局、有耶無耶のままだ。春に仲を深めて、砕けた距離感で話せるようになったと言っても、あれから彼女と進展もない。
ビラ配りの許可を得ている制限時間が経過した。
愛津は織葉と持ち場を離れた。
事務所へ引き返していた途中、つと織葉が足を止めた。
「愛津ちゃん」
「ん?」
「今日、上がったら予定ある?」
ここで予定がないと答えれば、今夜に向けて、愛津が織葉と何かしら約束が交わせるのは明白だ。例え重大な用事があっても、そんなものはなかったことにしない手はない。
