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左手薬指にkiss

第1章 日常スパイス

 刑事物のドラマで押収した薬物みたいな、そんな小さな袋に入れた錠剤を雛谷は取り出した。
 指先に挟んでぶら下げる。
「打つヤツとかもあるけど面倒だし危険だからね~。お手軽なのにしたよ」
 ありがとうございます。
 すらまともに言えない。
 ブツがブツなのだ。
 俺はずっと目を合わせられずにいる。
「一応三錠。効果は即効性で持って一時間かな」
 医者が処方箋を説明するかのように。
 雛谷は一瞬唇を噛んで、じっと俺を見つめた。
 園児を問い質す前の保育士。
 そんな空気を携えて。
「まさか抱かれに来た訳じゃないよね? あれだけ嫌ってたヒナヤンに」
 自虐的にあだ名を囁く。
「はい」
「んー。即答はショックだけど。じゃあ使う相手は一択。でもなんで? 普通のセックスに飽きるくらいヤってるの? 瑞希って思ったより不埒だったのぉ?」
「じゃなくてっ。えっと……なんていうか。あの人って俺をメチャクチャにしたじゃないですか、初めは」
「二つの意味でね~」
 う……
 まあそうなんだけど、文句言ってるみたいで後ろめたい。
「それが素なんじゃないかなって……うまく言えないんですけど、今あの人ずっとナニかを溜め込んでるように見えて……それが俺的にも辛くて。だからそれを吐き出させてあげたいっていうか、そのきっかけづくりっていうか」
「瑞希だったらこんな薬使わなくても裸で挑発すればぶっ飛びそうだけど」
 飄々と……
「出来ると思いますか」
「酒入れれば大丈夫じゃなーい? もう二十歳でしょ」
「十八です。まだ」
「ああ、イケるイケる」
 この人教師だよな。
 怪訝そうな視線に気づいても雛谷の顔は緩んだままだ。
 袋を器用に指先で転がして云う。
「酒より薬って方がスゴいけどねえ。まあ盛った張本人からすれば自分が一因だしなんもいえないけどさ」

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