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　95　メールの着信メロディ

　わたしは、その和哉の激情の現れといえる強引な引っ張りに、軽くよろけてしまった。

　ああ、もうダメだ…

　全てわたしがいけないんだ…

　仕方がない…

　わたしはその彼の激情の熱い思いの強引さに、諦めたのである。

　だって…

　わたしが悪いのだから…





　♬♩♪♩♪♬♪
　ブッ、ブッ、ブッ…

「あっ…」

　その時であった…

　今度は『夢の国』のキャラクターである、蜂蜜が大好きな黄色い太ったクマのテーマソングが短く鳴ってきたのだ。

「あっ、うっ…」
　すると和哉はそう声を漏らし、そしてわたしを強引に引っ張ってきていた手の力が一瞬にして緩み、抜けた。

　あらっ、まただ…

　今度は何？、メールなの？…

　しかもこのメールの着信音のメロディが、あの『黄色いクマ』のテーマソングって…

「ふふふ、和哉の着信音かわいいわね…」
　わたしは思わず笑ってしまう。

　このメールの着信メロディにより、一瞬のうちにわたしの自虐と、罪悪感と、緊張感の心がスッと緩み、和んだ。
　そしてわたしは思わず和哉にそう言った。

　すると、今度は和哉が急に焦燥感と自虐の表情を浮かべてきた。

　一度ならずに二度までも鳴ってしまった彼女からの、しかもこの絶妙なタイミングでの心和ます携帯電話の着信メロディとメールの着信メロディ…

　正に、和哉にとってはノックアウトのカウンターパンチになってしまったようである。

「あ……は、はい…」
　和哉はそんなわたしの言葉にぐうの音も出ないようで、呟くように返事をしてきた。

　そして、
　まるで真実さんは、この和哉の部屋のどこかに盗聴器を隠しているんじゃないのだろうか…
　と、本気でそう感じられる程の絶妙な、しかも二度の携帯電話の着信に、和哉はすっかり昂ぶりを無くしてしまった様であったのだ。

　気付くと和哉は、自らわたしを握っていた手を離していた…