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　56　写真…

　だが美冴さんは、この場を繕う為の機転の意味の問いだけではなく、本当に彼女について興味がある様であり、キラキラと目を輝かせて訊いてきたのである。

「ああ、真実ですか…」
　そんな美冴さんの想いに釣られ、つい、彼女の名前を呟いてしまった。

「なんか、真実、彼女だけはなんとなく…
　なんとなく美冴さんの影の存在感を薄々は分かってはいるみたいだけど、気にしてないっていうかぁ…
　自分に自信があるっていうのかなぁ…
　なんか、まだ、言われてはいないです…」
　確かに、普段から真実は自分に自信がある様に僕には感じられていた。
　そしてそんな彼女の自信溢れる振る舞いに僕は心を魅かれているのも事実ではあった。

　そして唯一の事実、それは
　彼女は本当に僕の事を好いていてくれている…
　これは紛れもない事実であり、そう感じている。


「そ、そうなんだ…」
　美冴さんは少し驚いた感じで呟いてきた。

「は、はい…」
　そして僕は頷く。
　すると、再び美冴さんはパッと明るい顔をして
「ね、ねぇ、その真実さんの写真を持ってないの」
　そう訊いてきたのである。

「えっ、写真って…」
　僕はそんな美冴さんの言葉にちょっと不意を突かれた感じがして驚いてしまった。
　そして思わず脳裏に真実の顔が浮かんできたのだ。

「うん、せめて顔だけでも見てみたいなぁ…」
　美冴さんは明るく、にこやかな顔でそう訊いてきた。

　なんとなくその美冴さんの顔は、弁護士秘書という事からの想像を、イメージを、勝手に膨らませている様な表情をしていたのである…

「し、写真ですか…」
「うん、写真、きっと素敵な彼女なんだろうなぁ…」
　そう言う美冴さんの目がキラキラしていた。

　ああ、なんかヤバいなぁ…

　まるで姉貴みたいだ…

　きっと姉貴的な感覚になっているんだろうなぁ…

　僕はそんな美冴さんを見て、手を伸ばせば届くはずの美冴さんは、ますます遠くに離れていってしまったような感覚を覚えていた。

　二人の間には再び高い壁がそびえ立ってきていた…