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シャイニーストッキング

第2章 絡まるストッキング1

 60 小さな灯り

「失礼します、蒼井美冴です…」
 わたしは面談の為に第2会議室のドアを開けた。

「どうぞ…あ、笠原主任にも同席してもらいますが…」
 そう佐々木課長が言ってきたので、わたしは彼女の目を見て
「大丈夫です、構いません」
 そう応えたのだ。

 そうか笠原主任も同席なのか…
 わたしにはその理由が何となく分かる、それは佐々木課長はわたしに苦手意識を持っているからなのだろう、と、そう思えるのである。
 それはいつもわたしを見てくるあの目で十分、わかるのだ。
 そして佐々木課長も自分がどんな目をしてでわたしを見ているのかは、既に自覚している筈だと考えていたのである。
 そしてその時そう思いながら佐々木課長の目を見たのだ。

「じゃあ早速なんですが…」
 と、笠原主任が佐々木課長に代わり、今回の面談の趣旨と、現在のこの二つの大きな新規事業計画と新規業務案件についての軽い概要を話してきたのである。
 そしてわたしがその笠原主任の話しを聞いている時に、さり気なく佐々木課長はわたしを観察するかのように見てきていたのである。
 その目は前回の面談の時の様に、わたしの本心を探ってくる様な目であったのだ。
 そして今日から、突然にこの極端に変わった、そう変身したわたしを探ってきてもいたのである。

 自分でもまるで別人であると思う位に変わったのは自覚しているのだ、猜疑心を感じてわたしを観察してくるのは当然なのである、と、わたし自身、そう思っていたのだ。


「……そういう事なの、どうかしら…」
 そう笠原主任は一通りの現況を話してきたのである。
 そしてわたしは目を閉じて下を向き、考えてみる。

 この前はこのタイミングで即断ったのだ、だから多分、佐々木課長は今回もわたしが即断すると思っているのかもしれない、それ程この前は失礼をしたのだ…
 だが、わたしは先に覚醒した時に、あのカフェ『波道』のゆうじの遺物、遺産を見て考えた事があったのである。
 そしてそれはわたしにとってまだほんの小さな灯り、道標であるのだが、今回のこの誘いの依頼を受ける事がまず小さな、そしてこの先の大きな歩みに通ずる一歩なのだと感じていたのだ。




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