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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 132 昂ぶりの余韻(2)

 さっきまでこの常務室に漂っていたわたしや彼女達の様々な微かな香りが…
 
 わたしのシャネル…

 佐々木ゆかりの柑橘系のフレグランス…

 蒼井美冴のムスク系の甘い香り…

 それらの様々な思惑と戸惑いと不惑な香りが…

 一気に、彼の吐き出したタバコの香りに負けて、消えていく。

 タバコの香り…
 それは彼の、大原浩一の、いつもの香り。

 そしてもうひとつの彼特有の香り…
 その香りが、鼻腔の奥深くから蘇ってくる。
 
 そうか…

 そうだ…

 このもうひとつの彼の特有の香りが…

 あの彼の独特の甘い体臭の香りが…

 わたしを狂わせ…

 疼かせ…

 昂ぶらせてくる。

 だがわたしはそんな昂ぶりの余韻を必死に心の中で抑え、押さえようと…

 カチャ、カチャ…
 押さえ、抑えようと、黙々とテーブル上の飲み掛けのコーヒーセットの片付けをしていく。

 そう…

 こんなわたしの昂ぶりなんて…
 いや、さっきまで対峙していた佐々木ゆかりや蒼井美冴を含めた三人の昂ぶりなんて気付きもせずに、一人舞い上がり、テンパっていた彼には想像すらしていない、いいや、出来もしないであろう。

「ふうぅぅ…」
 そんな彼は…
 一人ソファでタバコをふかし、違う意味での安堵感に浸っているようであった。

 カチャ、カチャ…
 コーヒーのソーサーセットをお盆に乗せ、奥の給湯コーナーに運び、シンクに置こうとした時に…

 あっ…
 そのシンクの角に軽く膝をぶつけてしまう。

 そして…
「ぁ……」
 わたしはその膝を見て、小さな声を漏らす。

 あ…

 そのぶつけたせいで…

 わたしの膝は…

 わたしの膝頭のストッキングが…

 ストッキングに一本の伝線のスジが走っていた…

「ぁ……」
 
 そのストッキングの伝線のスジを見た瞬間…

 昂ぶりの余韻の疼きが…

 心の余韻の疼きが…

 ズキズキズキズキズキズキ…

 一気にカラダの、いや、メスの…

 もう一人のメスの本能の疼きに…

 メスのカラダの疼きに…

 スイッチが入ってしまった。

 さっきの佐々木ゆかりの揺らぐ目によって顕れた、もう一人のわたしという存在が…

 メスの本能に支配されたもう一人のわたしという存在が…

 心の扉を開け、再び顔を出してきたのだ。
 


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