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　114　視線(6)

　佐々木ゆかり室長はそのわたしの言葉を聞いて…
　明らかに動揺の揺らぎの目をしたのである。

『わたし達の泊まっているホテル』

　それはわたしと彼、大原浩一が一緒に泊まったという事実であり、さすがに部屋が一緒の筈はないのは、いや、常識的にも分かっている筈なのだろうが…
　敢えてのわたしのそのわざわざな言葉と、この強い声音によって、余計な想い、妄想、想像を想起させたようであった。

　そうそれはわたしによる、見えない言葉の責めであり…
　彼女の心に、疑心暗鬼というあらぬ揺さぶりを掛けていく言葉の攻めでもあるのだ。

「え、青山さんと一緒に？」
　すると越前屋さんが不思議そうに、そう問うてきた。

「はい、どうやら青山さんは新潟支社転勤がきっかけでその竹下秘書さんとおつき合いをされていた様で…
　あ、越前屋さんは確か青山さんの妹さんと…」
　そうわたしが言うと…

「はい、青山さんの妹さんとは同期でお友達なんですぅ…
　それにぃ、青山さんはわたしの思いに同調してくれてぇ、反目、反発してくれてぇ、それが元で真中前常務に新潟支社に飛ばされた経緯があってぇ…」
　そう越前屋さんは答え…

「あ、ええ、そうなんだ、本当にそんな事が…」
　さすが勘が鋭く、理知的な佐々木室長である、この越前屋さんの言葉で一瞬にして真中前常務の独裁的なパワハラを把握した様だ…
　いや、隣の蒼井美冴も彼女同様にその流れを理解したかの様な目をわたしに向けてきた。

　やはり、この謎の蒼井美冴も侮れない存在のようだ…
　わたしの心に一瞬にして、この彼女の存在にも警戒、警鐘の想いが響き渡ってきたのだ。

　そしてどうやら、彼の様子をチラと横目で伺うと…

　やはり彼女、蒼井美冴ともなにやら関わりがあるみたい、いや、あったみたいな…
　そう、女、オンナの勘が脳裏に囁いてきていた。

「……そしてその陳情を受けて彼女に色々と問うと…
　様々な有資格者だと分かって…」
　　と、わたしは竹下秘書のその幾つかの資格を上げていく…