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　106　騒めく嫉妬心

　 わたしは、その佐々木ゆかり室長が、彼、大原浩一常務に対して向けているこの『柔らかな柔和の目』的といえる視線に、一気に苛立ち、いいや違う…
　それは嫉妬心という想い。

　その佐々木室長の彼に対する女、オンナ…
　つまりは恋人であるという自負、いや、自覚からの柔らかで柔和な視線。
　
　それはまだ、今のわたしには無い、ううん、完全には無い…
　自信のない想いなのである。

　確かに、彼と過ごした一昨夜の出張前夜と、昨夜の出張…
　完全に彼の心がわたしに傾き、いや、落とせた、いいや、わたしの男、オトコになったと認識した筈なのだが…

　そんな想いは…

　この今、この瞬間の佐々木室長の女、オンナであり、恋人然とした自信たっぷりな、いや、揺るがない彼女の自負と自覚のこの視線、眼差しによって瞬く間に消し飛んで行ってしまったのだ。

　そう、一時は、いや、この常務室に入って来た瞬間の彼女、佐々木室長には、この部屋に微かに漂っているであろうわたしのシャネルNo.19の香りの…
　その香りのカラクリに気付き、一瞬だが、絶望的な目の色と表情になったのをわたしは見逃さなかった。　
　そしてわたしはその彼女の変化の様相に、一気に勝ち誇った昂ぶりを感じたのだが…
　なぜか彼女の視線が、いつの間にかに、いや、越前屋さんによるシステムプログラムの説明のフォローをした途端に、この恋人然とした自負と自信の自覚の眼差しへと変化をしたのである。

　わたしはその変化に一気に嫉妬心という想いを感じ、いや、嫉妬という沼へと沈み、陥ってしまったのだ…

　心が激しく波打ち…
　ザワザワと騒めいてしまっていた。

　せっかく時間を掛けてあのシャネルの残り香のカラクリ作戦を仕掛けてきたのに…
　昨夜、完全にわたしのモノになったと思っていたのに。

　それにまだ…
　彼自身の心の揺らぎも伝わり、感じてしまう。

　佐々木ゆかりには負けたくはない…

　彼はもう…

　わたしのモノ、いや、わたしの男、オトコ…