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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 95 トライアングルブルー(3)

 私はそのゆかりの顔を、目を、直視できなかった…
 なぜなら、そのゆかりの目が揺らぎ、なんともいえない色を浮かべていたから。

 いや違う…
 そのゆかりの目が、わたしのことを、いいや、わたしと律子、つまり秘書のこの松下律子との秘密の関係を、そしてわたし自身の律子に傾きつつあるこの想いの気持ちと心の迷いを一瞬にして読み取ったかの様な目の色をしていたからである。

 だから…
「あ、そ、そう、あの例のアレ、システムプログラムにかなりの進展があったみたいと聞いたが…」
 と、自分の後ろめたさを誤魔化す為に、咄嗟にそう言った、いや、言い繕ったつもりのその返しの言葉が…
 思いっ切り声音が裏返ってしまい、自らの心の動揺と、後ろめたさと、狼狽えた想いをまるで自白したみたいな返しとなってしまったのだ。

 そう…
 私はウソ、嘘がヘタであった。

 そしてこの目の前にいるゆかりと美冴、それに律子という三人は…
 理知的で聡明で、勘が鋭く、凛としている素晴らしい美女達であるから、こんな私のヘタなウソなんて簡単に見破られてしまうのである。

 そんな一瞬で伝わってきたゆかりの目からは…
 まさかのわたしと秘書の関係への疑惑ではなく確信からの落胆と絶望的な色の目であり、そしてその隣に座る美冴の目からは、そんなヘタなウソを誤魔化すかの様に言い繕った言葉の声音から全てを見透かし、分かったかの様な、呆れ気味な疑惑の視線を痛いほどに感じてしまい…
 
「あ、おっ、あ、蒼井くんも…ごくろうさま」
 またしてもこうした狼狽えの、誤魔化しの、動揺たっぷりの間抜けな返しをしてしまう。

 だから私はゆかりの事も、美冴の事もまともに見る、いら、目を向けることさえできずに…
 唯一の救いである存在感の越前屋に顔を向けるしかなかったのだ。

 そしてこんな思いっ切り動揺の有様を顕している私の傍らから…
 間違いなくそんな間抜けな私の事に気付いているであろう律子が淹れたコーヒーを運んできたのである。

「さぁどうぞ…」

「あ、うむ」

 その一瞬の間に、すかさず律子の顔を見るのだが…
 視線は合わなかった、いや、律子が合わせてくれなかった。

 おそらく、あまりにも間抜けな私のこの狼狽えぶりに呆れているのであろう…




 

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