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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 74 8月21日木曜日午後2時15分

 午後2時15分…

 ブー、ブー、ブー、ブー…

「あっ」
 わたしの携帯電話が着信した。

 ディスプレイの着信表示には今朝登録した名前…
『松下秘書』
 つまり大原常務専属秘書の携帯電話の名前が表示されている。

 今朝、彼女、松下秘書さんから…
『とりあえず本日の午後、え、ええと多分午後2時以後には本社へ戻る予定ですので、その時間当たりに本社まで御足労お願いできますか?…
 いちおうこちらから改めてまた時間が分かり次第に佐々木室長様にもう一度お電話します…
 では失礼します…』
 という電話があったから、多分その連絡の着信であろうとは思われる。

「………」
 しかしわたしは、その電話を出るのに一瞬だけ躊躇ってしまう。

「あ、室長ぉ、電話鳴ってますよぉ」
 だけど、すかさず越前屋さんがそう言ってきて…
「あ、う、うん…」
 わたしは携帯電話を手に取り…
「はい、佐々木です」
 電話に出る。

「………」
 さすが敏感な美冴さんはそんな一瞬のわたしの躊躇の反応に気付いたらしく、越前屋さんの後ろから優しい目をして見つめてきた。

 美冴さんには詳しい事は何も、いや、一切、彼、大原常務と、そしてその専属秘書に関する事柄等は話した事もないのであるが…
 おそらく敏感な美冴さんは、この前後、つまりは昨日から一緒に本社に同行して貰ってもいるし、彼の出張の件やそれに対するわたしの微かな動揺等を見過ごす筈がないから、この電話への微妙なわたしの反応にも気付いてくれている筈なのである。

 いや、そう思われ、ううん、そう信じている…
 つまりは、美冴さんなら分かってくれる筈と。

 わたしはそんな事を思いながら、そして美冴さんのその目を見つめながら…

「松下さん、お疲れ様です」

 なんとか気丈に、そして精一杯気持ちを強めにして、そう応対する…


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