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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 71 心の壁

 時系列的には2186ページからの続きとなります…

 わたしと大原常務の二人は午後1時半過ぎに新潟から東京駅に到着し、駅外のレストランにてランチを済ませた。

 わたし的にはいくら業務中とはいえ、そして出張による新潟市内ではなくどこに誰の目があるやもしれない東京都内での彼、大原常務と食事を共にするという行為は避けたかったし、ふと心が油断してしまうと自分の目線や何気ない仕草、態度、会話、そして声音にわたし自身の彼へに対する愛情の想いが表れてしまい周りに悟られてしまうのではないのか…
 そんな怖さが常にあるからできれば公私をしっかりと分けて、いくらランチとはいえ彼と共にしたくはないという思いがあった。

 だけど…
『いやいいんだよ、私は律子と昼飯が食べたいんだよ』
 と言ってくれた優しい言葉と、その愛情を感じる目に、つい、心の壁を崩してしまい…
 こうしてランチを共にしてしまったのである。

 だが本当にどこで、何処に、誰の目、耳があるやもしれない…
 という警戒心だけはかろうじて保ち、出来るだけ、いや、本当に一瞬でも心を緩まさないように精一杯、そして、わたしはあくまでも大原常務の専属秘書であり、社員と部下であるサラリーマン世界の中に生きている明確な上下関係の規律を守る、いや、そう周りから見え、見られる様に完全にプライベートの自分、つまりは彼を愛している松下律子という素の女の顔に仮面を被せ、そして常に緊張感を維持しているつもりでランチを過ごしたのだ。

「大丈夫だよ、誰もいないし、見られてもいないから…」
 だからそんなわたしの必死さが彼には十分に伝わり、そしてかえって彼に結果的にはそう言わしめさせてしまう。

「いえ油断は禁物ですから…」
 そう、正にそうなのだ…
 ましてやわたしはつい数日前までは銀座のクラブのホステスであった訳であるから、やはり、何処で誰に、そのクラブのお客様と会わないという保証は全くない。

 それに大原常務にしてもつい数日前にはバブル経済破綻の暗い世情の中での久しぶりに明るい話題としての、大手商事会社と大手生命保険会社のM&Aによる吸収合併の記者会見ニュースにも写った関係者であり、異例の出世をしている一人でもあるから、誰が見て、聞いて、知れているやもしれない存在であるのだから…
 警戒して、過ぎる事はないのである。



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