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　59　出勤

「じゃあ先に下りてタクシー拾ってますね」
　敦子は本当は、そんなわたしの朝の色々な不惑の揺らぎを察知しているであろうが、そんな様子は微塵も表さずにテキパキと朝ごはんの後片付けを済ませ、出勤の支度を整え、そしてそう言って先に部屋を出て行った。

「えっ、タクシーって？」
　すると慌てて支度をしている越前屋さんが敦子のその言葉を聞き、わたしに訊いてくる…
「あ、うん、わたしいつもタクシーを使ってるのよ」
　わたしもバタバタと出勤の支度を整え、ま、支度といっても簡単に化粧を施し、スーツに着替えるだけなのだが…
「えぇいつもタクシーなんですかぁ？」
　と、越前屋さんは驚きの声を漏らす。

「うん、あの満員電車苦手なのよね…
　高確率でいつも痴漢に遭っちゃうしさぁ、それに会社からタクシーチケット支給されてるからね」
　と、ヒールを履きながら答える。

「痴漢かぁ…
　あ、わたしは毎朝満員電車ですけどぉ、そんな痴漢に遭ったりはしませんけどねぇ…
　美人さんには美人さんなりに苦労があるんですねぇ」
　越前屋さんはそんな言葉を返してきた。

「さぁ、ほら、早く、伊藤さんに怒られちゃうわよ」
　わたしはそんな越前屋さんの言葉を軽く流しながら、彼女を急かす。

「あ、はーい」
　そして急ぎ二人でエレベーターに乗り、地階に降り、敦子が待っているタクシーに乗り込み出発をする。

「……え、あ、うん、わたしもよく痴漢に遭ってたわよ…
　ホント、あれには朝からテンション下がるんだわぁ…」
　と、タクシーに乗るや否や、そう越前屋さんがその痴漢の流れの続きを敦子に話し、彼女はそう応えてきた。

「え、そ、そうなんだぁ…
　わたしは高校時代から一度も痴漢になんか遭った事なんてないのにぃ…」

　そう越前屋さんが呟く…