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シャイニーストッキング

第10章 絡まるストッキング9      美冴とゆかり

 143 波打つ心…

 わたし達は自宅に戻ると
「美冴、まだ出掛けないでしょう?」
 再び姉が訊いてきた。

「あ、うん夕方から…」
「ふうん、夕方にはまた出掛けるんだぁ」
 なんとなく今日の姉の嫌味攻撃はしつこい気がする。

「お母さんとあのファミレスにお昼食べに行くんだけど、もちろん行くわよね?」
 わたしは頷く。

 だが、康っちゃんがバイトしているファミレスは…
 つまりは和哉もいるファミレスなのである。

 確か昨夜からは彼女である真実さんが泊まりに来ると、昨日の帰り道に言っていたから、和哉はいるはずがない。

 大丈夫よね…
 一昨夜、昨夜と二日間、熱い逢瀬を過ごしたから、なんとなく…なのである。

 もしもきっと、今日も顔を見てしまったならば、色々な意味が重なり、複雑な昂ぶりを感じてしまう様な気がしていた…

 できれば、和哉の存在感から離れたい…
 いや、しばらく忘れたい。

 思わぬ流れで五年振りに和哉と濃密な二日間を過ごしてしまい、新たな、いや、改めて大人の男としての和哉の存在感を感じ、見直してしまった…

 だが、もう既にわたしには愛しい健太という存在がいる…

 そして、ゆかりさんという…
 微妙に複雑で、かつ、愛しい、新たな存在が出来てしまったのである。

 だから、もう…
 もう、わたしの心の中はいっぱいなのだ…
 少し落ち着いて、心の整理整頓をしなくてはまた正常に戻りつつある自律神経が、暴走してしまうかもしれない…
 あまりにもこの二週間に、色々な事が起こり過ぎた…
 そして今は、いや、今朝からは…
 ゆかりさんの事でいっぱいなのだ。

 実は今も、ふと、心を緩めると…

 ゆかりさんの顔が…
 昨夜の抱擁の痴態が…
 心のときめきが…
 カラダの快感が…
 大海原の緩やかな波の様に…
 寄せては去り、また、寄せてきているのである。だからできるだけゆかりさんという存在を、心の隅に追いやっていた。

 そのくらい、いっぱいいっぱいになっていたのである…

 だから更に和哉という存在感が入っきてしまったならば、溢れて、こぼれてしまい…
 きっと心が悲鳴を上げてしまうはずなのだ。


 大丈夫よね、和哉はいないはず…

 ドキドキドキ…
 心が複雑に波打っていた。

 そしてファミレスに到着する。

 いない…
 和哉はいなかった。



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