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　24　常套句

「あ…はい…男には……興味なくてぇ」
　そんなわたしの呟きに伊藤さんは、やや苦笑いしながらそう応えてきた。

「あらぁもったいないわぁ、そんなに美人さんなのにぃ」
　わたしは思わずそう呟いてしまう。

　本当に伊藤さんは美人なのである…

　耳元後ろ位から刈り上げてあるベリーショートの髪型が、小さな顔を更に小さく見せてきて、そしてそれがスレンダーの体型と相まってモデル並の八頭身に魅せていたのだ。

「男には全く興味無いんですよぉ」
　更に伊藤さんは続けくる。

「そうなんだぁ…」
　わたしはその時は…
　美人が故に過去に色々とあったんだろうなぁ、と、普通に考え、思っていた。

「そうなんですよぉ、あっちんはぁ、社内でも男達から人気ナンバーワンだったんですけど、全く見向きもしなかったんですよぉ…」

「ふうん、越前屋さんじゃないけど、本当に勿体ないかもねぇ…」
　わたしは本気でそう思ってしまい、思わず言葉に呟いてしまう。

「え、そんなぁ、それを言ったら室長さんだってぇ、勿体ないじゃないですかぁ」
　と、伊藤さんは返してくる。

「あ、わたしはバツイチだから…」
　
　実は、この『バツイチ』という言葉は、こんな男絡みの話しになった時のしわたしのいつもの常套句なのである…
　大概はこの『バツイチ』というわたしの言葉で、相手は納得し、話題を変えてくれるのだ。

「ええ、ゆかり室長もぉバツイチなんですかぁっ」　
　すると越前屋さんがそう驚く。

「えっ、わたし…もって？」

「あ、はい、つい昨日、蒼井美冴さんからもぉ偶然に『バツイチ』ってぇ訊いたんでぇ…」

「あ、うん、確か、そう美冴さんもそうだってわたしも訊いてるわ」
　この越前屋さんから『美冴さん』の名前を聞いて、一瞬、ドキッとしてしまう。

「なんかさぁ、最近は男が面倒でねぇ…」
　そしてそう付け加える。
　大概、これでわたしの事は終わるのだ。
　だが、この一瞬の『美冴さん』の名前を聞いてのときめきで、少し胸が騒めいてしまってきていた。