ほしとたいようの診察室
第9章 ひとときの外出
「じゃあ、陽太先生。包丁持って」
ニヤリと笑ってちょっと偉そうに指図するわたしに、陽太先生は苦笑いを浮かべる。
「え、いきなりハードル高くない? 皮剥くやつとかあるじゃん、先に」
と言いつつ、ピーラーを空中にイメージする陽太先生に、包丁とまな板を指さす。
「こういうのは習うより慣れろですから」
「案外スパルタなんだね……のんちゃん」
「もちろん」
もうすでに後悔の色を見せる陽太先生に、どんどん指示をだしていく。
やいやい言いながらも、調理が始まった。
「あ!ちょ、陽太先生、手!! ちゃんとグーにしないと!!」
恐る恐る食材を切り始めた陽太先生の左手に、げきを飛ばす。
思ったより危なっかしくて目が離せない。
「だから包丁はハードルが高いって言ったじゃん」
「でもお医者さんならメス持ったことあるじゃないですか!」
「メス持ったのは研修医時代が最後なのっ!っていうか、メスと包丁は別物だし」
笑いながら、誰かと料理をするなんて。
それが、陽太先生とだなんて。
嬉しくて楽しくて、しかたなかった。
うちのキッチンがこんなに明るくなったのは、初めてのことだった。
……
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