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ほしとたいようの診察室

第7章 回想、主治医の苦悩



「今日見てたけど、あののんちゃんの表情は、『好きな人』にしか見せない顔だと思うよ、色んな意味で」



「いや、好きな人って……」



吹田先生に捕まり俺に引き渡される、幼いその泣き顔を思い出して、苦笑いする。

しかし、吹田先生は真面目な顔で言い返した。



「幼児、あなどるなかれ。子どもだって人間だよ。まあ、俺には絶対に見せない顔だね」



なんと返して良いかわからず、話題を濁す。



「ってか、吹ちゃんのこと、のんちゃんは警戒しつつも信用してるっていうか……そんな感じだけど、のんちゃんに何したの?」


そういえば、吹田先生は研修医時代に入院していたのんちゃんと、関わりがあった。


噂では、研修医でのんちゃんに当たって、コントロールできた医者は、吹田先生ただひとりだったという。
俺の小児科ローテのときには、のんちゃんはぎりぎり入院を免れて外来で診ていたので、関わることがなかったのだ。



「ん。ひみつ。いろいろ工夫はした。あの手の子は僕にはパワーが強すぎる。……俺はなるべく省エネで生きていたい人間だからね。」



ゆるり、とかわされた上に、喧嘩を売られた気がする。



「それはなに? 俺が無駄なエネルギーを使ってるってこと?」



しかし、吹田先生を相手に口喧嘩は賢くないので、遠慮がちに不服を伝える。


「そうじゃないよ。のんちゃん相手に正面から向き合えるだけのパワーが、日野くんにはあるってこと」



「ふーむ……なんか褒められてる感じしないんだよなぁ」



「褒めてる、ベタ褒め。まあ頑張りなよ、陽太先生」





背中をトントンと叩かれ、その場を丸く収められてしまう。




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