ほしとたいようの診察室
第6章 回想、はじめまして
笑ってもいないし、泣いてもいない。のんちゃんの、凪いだような表情は初めて見た。
きっとここ数日、思うことがたくさんあったのだろう。
「……何が一番怖い?」
手元のカルテをしまい、のんちゃんと目が合うようにしゃがんだ。
「ちっくんとね、……おこられたとき」
小さな唇をツンと尖らせて、そう言った。のんちゃんの表情は、万華鏡のようにころころ変わる。
「落ち込んでるの?」
そう聞くと、みるみるうちに、のんちゃんの目が潤んでいき……。
頷きながら静かに涙をこぼした。
そうか、怖かったのか。
思えばあの時、のんちゃんは俺にも叱り飛ばされてるし、優先生にも説教をくらっていたのだ。
無理はないか……まだ5歳だし。
それにしても、豪快に怒鳴った優先生に、『きらい』って言うんだから、そっちもすごい根性だと思うけど。
「怒るのは、のんちゃんの命がとっても大事だからだよ」
諭すように言ってみたけれど、その意味がわかるのはもっと先だと思い、言葉を考え直す。
そっと頭を撫でながら、これだけは伝えておくことにした。
「大丈夫。みんな、のんちゃんのことが大好きだよ」
ティッシュで涙を拭いてあげると、のんちゃんは言った。
「ゆうせんせーも? ……よーたせんせいも?」
初めて本気で怒られて、突き放された感じがあったのだろう。
もう一度、のんちゃんの目を見て、しっかりと伝えた。
「うん。優先生も、俺も。のんちゃんのことが大好きだよ」
……
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