テキストサイズ

ほしとたいようの診察室

第6章 回想、はじめまして


……



午後の外来も終わり、優先生がようやくほっと一息ついたのは、もう夜になってからのことだった。

今日の事故の原因はなんだったのか、優先生の言葉に耳を傾ける。

優先生はコーヒーを淹れると、角砂糖を4つ落とした。意外にも甘党なのだ。



優先生は医局のソファに腰掛け、深いため息をついた。


「……どうやら、食堂のプリンが食べたかったらしい」

「え? プリンですか?」

聞けば、最近、目に余るのんちゃんの行動は、抑えられていたことからのストレスだったと、優先生は踏んでいた。

だから、優先生は。


「約束したんだ、のんちゃんと。ちゃんと良い子に点滴終われたら、食堂のプリン食べに連れて行ってあげるからって」


優先生が外来前に取り付けた約束は、それだった。


「そしたら、まあ。予想外。クレンメ回せば点滴の速度が上がるの、知ってたんだな。……よく見てる。早く終われば早くプリンが食べられると思ったらしい」

「うわぁ……、侮れないですね……賢い」


裏を返せば、それだけのんちゃんは点滴をされてきている、ということにもなる。
闘病生活は、長く楽しくないことの方が圧倒的に多いことが、少しかわいそうにも感じる。

「そう。賢いんだよな、のんちゃんは。……まさかだった」

優先生は、甘くなったコーヒーを一口飲む。




「よかったよ、陽太先生が見つけてくれて。助かった」

「いえ! 俺は。優先生に言われて病室にたまたま居たわけですし」


優先生に言われていなければ、多分、のんちゃんの部屋を覗くことはなかったから。
優先生は、のんちゃんのこと、なんでもお見通しのようだった。

しかし、優先生は


「実際、処置が滞りなく済んだのも、陽太先生だからだったと思う。ありがとう」

と、呟くように言った。



「……はい」

ここは素直に、言葉を受け取っておくことにした。





……

ストーリーメニュー

TOPTOPへ