
ほしとたいようの診察室
第6章 回想、はじめまして
のんちゃんが起きたのは、意識を失ってから2日後のことだった。
目を覚まして第一声は、
「おかーさん……」
だった。
のんちゃんの両親は出張や残業が多く、暇を見つけては娘の病室に来てくれてはいたが、ずっと一緒にいることが難しかった。
娘の命より大事なことってなんだよ、と内心は思いつつ、しかしいろんな家庭があることは小児科医をしているとちらほらと見えるものであり……これ以上の気持ちは飲み込むことにした。
「気づいたか? 痛いところはないか?」
「おかーさん……おかーさん……」
のんちゃんは、最初、そう呟いて泣くばかりだった。俺の問いにはまるで答えず、泣くだけだった。
自分の状況なんて、飲み込めるはずがない。
「お母さんはお仕事に行ってる。いま、電話してここへきてもらうから、安心してな」
そう伝えて、頭を撫でると、ようやく別の言葉が出た。
「おかーさん……のん……あいたい、おかーさん……」
「……のんちゃんって、呼ばれてるのか」
「のん……のん……おうちかえる……」
そう呟いて、泣きながら手足をもぞもぞと動かす。
その手が、口元についていた酸素マスクに触れて、ずらそうとする。
「こらこら、これはこのままで」
不機嫌な表情をしたが、のんちゃんは力なくその手をおろした。
……
