
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
病院を出てすぐのところの門の脇から、見慣れた制服姿の少女が一人、くりりとした目をゆづるに向けた。買い物を済ませた主人の帰りを待っていたマルチーズを聯想する彼女は、無邪気な小動物とはかけ離れた、遠慮がちな気色を白い顔に張りつけていた。
期末試験も間近に迫った七月初頭、目先に控えた試練はさておき、ゆづる達くらいの学生であれば、本来、浮き足立つ時期だ。それは解放的な外の空気を吸い込んだ途端、ゆづるも実感したことだが、快晴から注ぐ黄金色の逆光に一学年下の少女の顔が見えても、彼女同様、呑気な話題を出せそうにない。
「笙子ちゃん、お加減は?」
「臓器に悪性の影があるって。症例もなくて、今はチューブで悪化を防ぐしか……」
そう、と、相槌を打つひよりの顔は、青かった。
膝小僧が隠れる丈のスカートを蝶の羽根のように揺らしながら、ゆづるの一学年下の呼ぶ後輩──…ひよりが、肩よりやや長めの黒髪を耳にかけた。
模範生を絵に描いた彼女とゆづるが知り合ったのは、校内行事だ。
どの部にも所属しない、しかも龍弥や翔太のような生徒らと普段つるんでいるゆづるにとって、ひよりは別世界の住人だった。関われたのも奇跡に等しく、彼女のように純真な少女が、教師らが不良のレッテルを張るゆづるを恋愛対象に見たことなど、今になっても信じ難い。
龍弥達も事情は違えど、無意味に反抗しているのではない。派手な見た目や素行からでは想像つかない、彼らの脆さは温室の子供達の理解を得られるものではなかったのに、彼女は、ゆづるのそんな親友達とも分け隔てなく接した。仮にゆづるが問題児でなかったとして、他の生徒らと不足なく交流が持てていたとしても、彼女以上の女はいない。
