
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
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ドアから覗いた表札の苗字の男の顔は、気弱で善良で白々しかった。明珠に聞いていた通りだ。
ベランダに揺れていたのは、夢見がちな色彩の、ドレスのような、乾いた衣類だ。喉が腫れているのを理由になずなを出し渋ったすぐるに、洗濯物を干していた彼女は元気そうだったとゆいかがかまをかけた時、奥から何か物音がした。
「不法侵入だぞ!この部屋はオレのですからね、一人で暮らせないこいつを養ってるんだから、躾けるのも当然です」
昼間の怨嗟より耳障りなすぐるの声が、なずなを下着姿で拘束していた縄をほどくゆいかの気を散らす。
物音は、なずなの落ちたそれだった。
彼女は既に憔悴して、声も出なかったのだ。青白い顔は腹をくくった死人のようで、赤や紫の滲んだ身体は脂汗が吹き出ている。
天井の柱から吊るされて、箒やモップで嬲られていたらしい。蹲って呻いたかと思えば、時折、ひひひ、と、笑いもする。致命傷を負わなかったのは、落下の瞬間、彼女の防御力が作動したからだろう。
「おい、お前、逃げる気だったんだろ。お前が動くから落ちたんだ、おとなしく話も聞けないのか」
「なずなちゃん、立てる?」
「ゆいかさん……これはその、すぐるくんの言う通りで……」
「だいたい、どこの誰なんですか。貴女のようなお友達は、なずなから聞いていませんよ。おいなずな!!」
