
副業は魔法少女ッ!
第2章 魔法少女の力
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ルシナメローゼがテナントに入っているビルの裏手の真向かいに、椿紗の住む戸建がある。
古びた平家だ。引っ越してきて十年以上経った今でも前の住人の生活していた名残りが随所に感じられるのは、椿紗が故人の情念に敏感だからか。
帰宅して荷物を下ろすと、花壇に出た。落ち着いた色味の草花が、夜風に揺れる。
白濁色の石を付けたネックレスに念を込めると、椿紗をとりまく辺りの景色が一変した。
"お帰り、椿紗"
まるで四季の存在しない空間に、幼い女の声がした。成人年齢に達するか否かほどのその声は、夜闇の天幕の晴れた景色に浮かんでは消える幻のように、椿紗に向けてのみ聞こえる。
「今日は三つ。保管に来たわ」
東雲という表札を掲げた戸建の門から覗ける花とは違う、明るい春色の咲き乱れる花壇の側に、椿紗が数分前に持ち帰った石を置くと、声の主から落胆した気配がした。
「そう、もどき。当分、本物は難しいわ。今、人手が足りなくて」
"でも、椿紗といられる時間がもっと欲しい。お給料、上げられないの?そうしたら従業員だって"
「視野に入れておくわ。ただ、難しくて。魔法少女なんて、大々的な募集は無理だし。それなりに報酬が必要か、信じそうな人にしか」
