
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
眉を下げた玲瓏な顔に、ゆいかは首を横に振る。
「それと、詮索したこと謝らないと。ゆいかと終わってしまうと思うと……焦って……」
「明珠!」
彼女の腰を引き寄せて、ゆるくもつれていた手に力を込めた。
ゆいかが疑心を向けていたのは、明珠ではない。自分自身だ。
自分の代わりなどいくらでもいる。有名会社の高嶺の花の目に、運良く留まっただけの女など、容易く彼女の過去になると。
だが、それは本心ではなかった。
「好き……大好き。一緒がいいよ。追いかけてきてくれて、ますます好きになっちゃった」
手の届かない存在だった。明珠には、ゆいかの知らない歳月があまりにも多い。数多の敬愛を集める彼女は、実際それに見合った人物で、あえてゆいかに執心すべき理由もない。だが、美人社長という地位や人柄、人望など関係ない、ゆいかが彼女を愛したのは本能だ。
好意の根拠は、畢竟するに後付けだと、どこかで聞いたことがある。ゆいかがそうであるように、彼女も同様であればいい。
こうも必死に追ってきてくれた彼女の顔など、ゆいかを含めて、知るのはおそらくひと握りの人間だけだ。
ガラスの靴は、魔法が解ければ、古びた重たい履き物に戻る。だが物語のシンデレラも、彼女を追いかけてきた王子の求愛には抗えなかった。
第3章 ガラスの靴の正体は──完──
