
戦場のマリオネット
第6章 乙女は騎士の剣を掲げて
華やかに盛装した王族や貴族達が往来する中、私は騎士団の正装をまとったイリナと、ローズマリー家の庭園にいた。
「いつかこの日を迎えるんだと、漠然と想像はしていたけれど……こんなに早いと思わなかったし、次の王はリディ様のご子息になる可能性も考えていたし、私……感動して泣きそうになったわ」
「リディの結婚式は、我慢出来ないかもね。警備が泣くなんてなかなか見られない光景だから、見てみたいよ」
「もう、他人事みたいに」
イリナが唇を尖らせる。
私達は足を止めて、とりどりの薔薇が咲き乱れる花壇に目を遣る。チェコラスにいた頃も、いつかよく似た花壇を彼女と見ていた。
あの頃よりずっと綺麗だ。
リディは、騎士団の在り方を見直した。純潔の、しかも美しい容姿を条件とするのは人権を害するとして、その掟を廃止した。
「本当なら、私の立場はラシュレに返すべきだったのかもね。それが女神トレムリエの思し召しなら……」
「リディが自分の騎士はイリナだけって言ってたんだし、女神も文句は言わないさ。問題なのは、私の方。女王の補佐なんて、王族から指名されるものじゃないか。相変わらず何考えてるんだか」
「適任じゃない。いつしか今の風習に変わっていただけで、昔はアイビー家の聖職者が王を補佐していたのよ」
「私、こっちに改宗してないんだけど……」
「じゃあ、お仕置き……しなくちゃね?」
腕を絡めてきたイリナが、悪戯げな目で私を見上げる。
「君が言ったら、笑えない」
「一ヶ月もキス以上のことしてくれなかったお返しよ」
「お互い、安静優先だったからね」
