
戦場のマリオネット
第5章 真実と本音
昨夜、あまりに熱く甘い一夜に踊り狂った私は深い眠りに落ちたのに、二時間ほどしか眠れなかった。
まだ窓の外が暗い内にラシュレの腕の中で目を覚ました私は、寝台の脇の剣を見つめた。あの剣の鞘を抜いて、私を包み込むようにして寝息を立てていた彼女を血に染めていれば、コスモシザは窮地を逃れられたかも知れない。愛おしい、私が生涯を誓ったリディ様の国を、この手で救い出せたかも知れない。
それを私は出来なかった。
リディ様が、眉を下げて私を見ている。
私にそんな目を向けられる価値はない。
「申し訳ありません……リディ様……」
「イリナ」
「申し訳、あり──…ひっ……ぐす……」
泣くくらいなら、あの仇を殺せば良かったのだ。この屋敷に火を放てる機会だって、私には何度もあった。
薄闇に見たラシュレの寝顔を思い起こす。
その所業に似つかわしくない優しい顔を、盗み見るだけのつもりだった。端正とれた彼女の容姿は、まるで見事な芸術品だ。
時計が振動する時間より、まだ大分、早かった。彼女の剣を手に取る決心をするための時間が、私にはあった。
腹を決められなかったのは、私のリディ様への想いが生半可だったからではない。
ラシュレの目尻を、涙がこぼれていたからだ。
