
優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第15章 文化祭(後編)
お金と引き換えに、マフィンを4つ、袋の中に入れて手渡す。
「ありがとう……。春斗、ちょっと席外せるか?」
「ん?」
「悪いな……少し……」
優がほんの少し、深刻な表情を見せた気がして、なんとなく不安になる。
春ちゃんが不穏な空気を拭うようにわたしたちに笑いかけた。
「わかった。咲、由貴、ちょっと店外れる。すぐ戻るね」
「「わかりました」」
2人の背中を見送る。姿が見えなくなったところで、由貴くんがわたしに声をかけた。
「咲、大丈夫か?」
思ったよりぼーっとしてしまっていたらしい。
「あ……うん!大丈夫! 午後に向けて仕込まないとね」
「うん。でも今空いてるから、少し休憩してもいいと思うよ。優さんから、差し入れもらったし」
「由貴くんは休憩……」
「俺は適当にオーブン見張りながら座って休めるから、大丈夫だよ」
「……そっか。じゃあちょっと休もうかな」
気づけば午前中は、ずっと立ちっぱなしだった。
椅子に腰かけると、もう立ち上がれなくなる気がするくらい、疲れていた。
10分程で、春ちゃんが帰ってくる。
「ごめんね、ありがとう。たこ焼き売ってたから買ってきたよ。店番なら俺がしてるから、咲と由貴は裏でゆっくり休んだら?」
お言葉に甘えて、由貴くんとオーブンの前で休憩をとる。
一息つきながら、2人でいっちゃんのことを想った。
「いっちゃん、マフィン食べてるかな」
「優さんパシるくらいだから、もう相当元気なんじゃない?」
「そうかも。次のお見舞い、病室でお疲れ様会しよう」
「いいね! ……優さんに怒られるかな?」
「許可取っておくね」
短い休憩を挟んで、また売り場に立つ。
お守りのおかげもあったと思う。
その後も、マフィンは飛ぶように売れて、わたし達の文化祭は幕を閉じた。
