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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第7章 記者

おばちゃんは外に出て、店の軒下を長い棒で続きはじめた。

「アカン、止めよう。このままやったら泥と枯れ草が入った謎の汁飲まされるぞ」

おばちゃんは、その料理を知らなかった。

良夫は、おばちゃんを羽交い締めで止めたあと、お詫びに軟骨から揚げとおでんを注文した。

テーブルに戻ってきた良夫は、椅子に座るなり夕子に向かって言った。

「あ、話を中断して悪い。断っておくが、その案にはのれんわ。こっちはただの会社員やさかい、ヒーローでも正義の味方でもないし。てか、俺自身、ケンカ弱いし、格闘技経験なんて高校の頃の体育の授業でやった基本の中の基本の柔道だけで、闘えないのよ。それにそんな何度も、トラブルには遭遇せえへんから……諦めて。それに、もうお面は捨てた」

「捨てた?」

「ああ、今日はゴミの日やったから、ゴミ袋に入れて捨てた」

前日の夜、ゴミを集めた良夫は、思いきってお面まで袋の中に入れ、そのままゴミ捨て場まで出していた。

夕子は口を尖らせ、グラスのワインをキュッと飲み干した。

「嘘でしょ。昨日なんて、私を助けてくれたじゃない。闘ってたじゃないですか」

「あれは、たまたま助けたようなかたちになっただけや。自分のことで精一杯やってん。あのお面があったら、危険なことばかりあるんや。だからホンマに捨てた」

夕子は、田舎煮の中の鶏肉を一つ口の中に入れると、バッグから長財布を出し、中から五千円札を一枚出した。

「せっかく、事件もスクープも拾えて、二人三脚一石二鳥で出来ると思ったのに……」と言って、五千円をテーブルの上に置いた。

「取材させてくれたお礼です。今日は帰ります」

そう言って、夕子は席を立った。

「いや、ちょっと待って、このお金はいらないよ」

「まだ、私は諦めてませんので。また、お面のヒーローさんの活躍を必ず記事にします」と夕子は、店から出て行った。

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