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狼からの招待状

第7章 ブルー・クリスマス

 マダムは、水差しを洗面器に空け、そこに顔を浸けた。ジャンは、頭を抑えつけ、やがてマダムは息絶えた。
 慌てたジャンが、マダムの身体を起こし、洗面器がひっくり返った。
 …「ジャンは、マダムの願いをきいて─」「うん…殺人者に、なった」「ひとりでは死にきれなくて」「子どものように素直な彼に、縋ったのね」「ジャン…彼のようなひとを巻き込んで─身勝手に死んで。酷い」「それも、金持ちの異常さ、よ」
 祭壇が薄暗くなった。蝋燭の灯ひとつが、燃え尽きたらしい。
 「彼─ジャンはどうなるんでしょう」「自殺幇助。初犯で合意上の行為…執行猶予。あるいは、責任能力無しで精神病院行き」「え?」「彼ね、南の片田舎の精神病院で働いてたの。ママを探すって…都会に出て来た」
 ─明るい茶の髪の青年が、蝋燭を灯しに入ってきた。
 「マダムの自殺の原因は…」「─虚飾に破れた人生。自身の虚栄心に負けたというところかな」 新しい灯が、周囲を温かく照らし始めた。

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