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狼からの招待状

第1章 幻都

 (侍従のキムでございます)「あ…、チョン・ユノです─」(ユノさま。ご連絡も差し上げず…)「あの。チャンミンは」(ご安静になさっておられます)「変わりは、ないのですか」…キム!と呼ぶ女の声…(来週の検査で、治療の方針が決まるそうで─)…苛立たしげな声が再びキムと呼ぶ…「また、電話します」向こうから、通話は途切れた。



 ─サンドバッグに拳を叩きつける。(昨日のあれは…)天井から、漆喰の粉が、ぱらぱらと降る。(チャンミン…)左手のグローブを叩き入れると、汗の細かい飛沫がとぶ。(似てた)サンドバッグのロープが軋む─右を打った。(チャンミン) 
 はね上がったサンドバッグ。肩に手が置かれ、振り向くと、白いタオルが差し出された。キィキィとロープが回りながら、悲鳴を上げた。
 頭を下げ、タオルを受け取る。浅黒い顔を綻ばせ、ユノの肩を叩くと、通路の奥にゆく。
 ジムのオーナーだった。二階建てバスから見えたハングルの看板のビル─東洋拳のジム─を翌日訪ね、入会したのだった。
 ジムを案内してくれたのも、オーナーだった。 彼は腕組みをして、テッコンドの正拳の構えをする、数人の白人たちを眺めている。

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