
Melty Life
第1章 告白
「ゔっ」
「ひぁっ」
花の匂いが鼻を掠めた。
滑り落ちてきた人間を一人抱き留めた少女は、相応の衝撃に顔をしかめる。それと同時に、受け止めた上級生の軽さに驚く。軽い。それに柔らかだ。
制服を通して腕に感じる、想像以上に抱き心地の良い身体は幻か?
少女は、今しがた放送室で別れてきた上級生とは比べ物にならないレベルで人形めいた少女を抱擁していた。
自分よりやや低い位置にある肩が、足が、震えている。緩く波打った胸まである黒髪は、毛先になるほど青みがかったグレーをしていて、頰や目許、唇、指先、肌は至るところに淡い血色が散った象牙色だ。髪と同じ、青みがかったグレーは多分、コンタクト。彼女がピンク色の目だったことも過去にある。今しがた階段の途中にいた少年達と同級、つまり少女より一学年上の彼女は、数秒後、我に返った様子で見知らぬ下級生にしがみつくのをやめた。
「ごめんなさいっ」
「いいえ、大丈夫ですか?」
「ええ、うん。えっと、貴女──…」
「宮瀬あかりです。花崎先輩」
「そう、……。宮瀬さんこそ、怪我はない?」
少女が間一髪助けた上級生、花崎水和は、初対面の下級生が自分を呼ぶなり目を瞠った。それから相手の無事を知ると、心なしか緊張のほぐれた顔をして、追ってきた同級生達に振り向く。せっかくだし一緒に逃げよう。
校内からは、ほとんどの生徒がいなくなっていた。
やっと向こうが見渡せるほどになった階段で、少女は、一つ歳上の少年達が抱えたメルヘンチックな梱包を瞥見した。今の騒動でか型崩れしている。
