
土壇場の恋・あなたならどうする?
第4章 綱吉と竜二
普通、乗車するのが運転手を含め身内だけの場合、
上座は「助手席」になるハズだが。
運転手はきっちり黒いスーツ姿の何となくチャラい
感じのお兄さんで。
助手席にはやけに顔の整った、
これまた黒いスーツの男が乗っていた。
「あぁ ―― この2人はこれからもちょくちょく
顔を合わせると思うから紹介しとくな。運転してん
のが浜尾利守。助手席のおっさんは、俺の秘書
八木だ」
2人はそれぞれ俺に向かって目礼した。
「秘書 ―― って?」
「社長……もしや、自己紹介もまだなのですか?」
”八木”と言われた男が前を向いたまま
呆れたように言った。
「あーっ! そういやぁーそうだったな」
って、ガハハハ ―― と笑い飛ばすイケメン君。
「俺、手嶌竜二、ヨロシクな」
「お、俺、いや、僕は成瀬綱吉です」
「やだなぁ~、そんな急に畏まるなよ。俺の事は
竜二って呼んでくれや」
砕けた口調は相変わらずだけど……
あのマンションといい、
この高級車といい ――
よもや一般人だとは思ってねぇし。
よーく見れば、八木さんも、一見チャラい浜尾さんも
”夜の世界の雰囲気をまとっている”というか……
気軽には近寄り難い雰囲気がある。
「社長 ―― って?」
「あぁ。一応親父から受け継いだ会社動かしてる」
「へぇ~……」
マジマジと隣を見ていきなりある事を思い出し、
声を上げそうになって、自分の口を両手で覆った。
(嘘、だろ ―― まさか、な……)
「何だ。何か言いたそうだな」
ククッと喉の奥を鳴らして笑う。
愉悦に揺れる顔まで綺麗で目眩がしてくる。
「……もしかして、祠堂学院の卒業生だったり
します?」
「まぁな」
知ってる……
俺はこの男の事を知っている。
私立祠堂学院高等部、
生徒会・初代名誉会長・手嶌 竜二。
またの名を ”ハマの狂犬”
義理人情に厚い反面 ――
裏切り者には情け容赦ない鉄槌を下す。
彼が高校1年の時、
隣町の不良50人相手に1人で大立ち回りをして
不良共全員病院送りにしたって逸話は、
未だに語り継がれている。
