テキストサイズ

Memory of Night

第8章 花火


「……始まっちまったし」


 最初の一発を合図に、次から次へと舞い上がる色とりどりの打ち上げ花火。

 それに視線を向けながらも、舌打ち混じりにつぶやく宵の声はひどく不機嫌そうだった。


「まぁまぁ。綺麗だね、花火。ちょっと見てから帰ろう?」


 対して晃は穏やかな声音でそんなことを言っている。


「はぁっ? そんなのんびりしてて、知り合いに見つかりでもしたら……」

「大丈夫だよ。どうせ花火見終わるまでみんな帰らないだろうし」


 宵の言葉を遮るようにそう言って、辺りを見まわす。確かに、人の気配はまったくと言っていいほどなかった。

 ね? と再び促され、甘い笑顔と茶色がかった瞳で覗きこまれれば嫌とは言えなかった。


「……たく。勝手なヤツ」

「今さらだろ?」

「自分で言うな」


 宵は腕を組み、呆れ顔で晃を見ている。

 晃は目元を和らげ、その視線にこたえた。

 そこからは、また沈黙。お互い何も語らずに、ただ水の流れる音を聞き、夜空を彩る花火を眺めていた。

 どれほどの時間そうしていたのか。

 唐突に、晃が口を開いた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ