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Memory of Night

第7章 夏祭


「……なんだよ?」


 不機嫌そうな声で、晃は我に返る。

 宵を呼びとめていた事を思い出し、おそるおそる声をかけた。


「…………怒ってる?」

「死ねッ」


 ゆかたを掴む晃の手をばしっと振り払い、宵は再び歩き出してしまう。

 晃はそんな宵を追いかけ隣に並ぶと、「死ねはないだろ?」と控えめに抗議しながら隠し持っていたあるものを宵の目前に差し出した。

 それは、さっきこっそり買っておいたりんご飴だった。棒についているペロペロキャンディのようなものではなく、和風チックな柄の小さな紙袋に入った、一口サイズの飴玉だが。


「一緒に食べようと思って買ってきたんだけど……。お召し上がりになりませんか? 宵お嬢様?」


 にっこりと微笑みながら晃が言う。


「……てめーといるとそれだけで食欲なくなるんだよ! ふざけた呼び方やめろ!」

「はいはい、わかったよ、宵チャン」

「……っ」


 ……まるでわかっていない。


(やっぱぜってーバカにされてる……ッ)


 本気でこのまま晃を振り切り帰ってしまおうかとも思ったが、宵の服は晃の家にある。

 第一こんな格好で晃から逃げきれるはずないのだ。

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