
ほんとのうた(仮題)
第5章 騒々しい景色の中で
※ ※
そんな部屋でのやり取りがあってから、ほんの数十分後――。
「――♪」
上機嫌に鼻唄を奏でる真を隣に乗せ、俺は車を走らせていた。向かっているのは、自宅より三十分ほどの避暑地にあるアウトレットのショッピングモールだった。
すなわち結局は真に押し負けして、買い物にお出かけということである。
いくつかの懸念がありながらもそうしたのは、端的に表すのなら『泣く子には勝てない原理』といった感じだろうか。流石に真が泣いて駄々をこねたわけではないが、一緒にいる身として、その機嫌を損ねるのは避けたいものだ。
その甲斐もあって、当の真は窓から吹き込む風を頬に浴びながら、すこぶる気分も上々といったご様子。長いストレートヘアを後ろで一つに纏めた横顔は、それだけで随分と印象が変わって思えた。それに合わせ、帽子とサングラスも着用している。
まあ、大丈夫だな――と、その姿をチラ見して、俺は思った。
彼女が世間を騒がせている件のニュースについては、ある意味ではやや小康状態にあるといえよう。否、現に真が俺の隣りにいる以上、騒動が収束することはなかろうが。それでも当初と違って、その切迫感はかなり鎮まっているように感じた。
今、ネット上を中心する『天野ふらの目撃情報』は、かなりの数を数える。SNSにおいては画像つきで、その関連のネタが頻繁に投稿されている有様だ。
