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ほんとのうた(仮題)

第5章 騒々しい景色の中で


「別に高い物じゃなくても、全然いいんだけど。とりあえず、もう少し真面な服が欲しいよ。あと、メイクだって最低限はさぁ……」

「必要あるのか?」

「私、ここに来てから、ずっとスッピンだよぉ」

「いいじゃん、別に。どうせ、俺以外の人目にふれるわけでもなかろう。それに――」

「それに?」

 俺はふと真の顔をまじまじと見ると、歯の浮くような言葉を口にした。

「なにを身に纏おうが、たとえスッピンであろうろうが――真は最高に可愛いと思うよ」

 言った後で、拒絶反応から顔が引きつりそうになる。そうまでしてガラでもない言葉を連ねたのは、本心では買い物に連れて行きたくないからに決まっていた。

 その意図を見透かしたのか、真はじっと疑わしげに俺を睨んでいる。どうも、ハズしてしまったようだ。

 室内の空気が、一気に冷え込んだ気がするな……。

 買い物に行きたくない理由は、真の知名度と俺の懐事情――その両輪。その点では、真だって承知してくれているはずだが……。

「ねー、いいじゃん! せっかくの日曜日だよぉ」

 真は不平を口し、食い下がろうとしていた。

「いや……今、俺たちって、毎日が日曜状態だし……」

 俺はやや困り顔を浮かべ、そんな取り留めもないことを言うのが精一杯だった。

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