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妖魔の憂鬱

第4章 朝田 章市(あさだ しょういち)

旧家の長男として育った章市は、人一倍責任感が強く、文武両道を心指す秀才で通っていた。

しかし、それは本人のたゆまぬ努力の賜物だった。章市にとって努力する事、それ事態は苦ではなかった。努力する事で、自信を保っている自分の事も好きだった。だが一皮剥けば性への欲求は一般男性のそれと相違無かった。

むしろ回りからは、真面目で有る事を求められ…自ら抑圧して居るからこそ、自分と同じ様に努力で身を固める「ガードの固い女性を、淫らに喘がせてみたい」と言う欲求に駆られるのだ。

今の自分の生活にも、妻の順子にも不満が有るわけでは無い。只、今までは容易に押さえられて来たこの衝動が、今夜はいつになく押さえられない。



隣接した部屋の灯りは、幾つかの蝋燭と月明かりだけ。

正面の壁一面の窓を開ければ、広いバルコニーに出られる。重厚なカーテンは纏められいて、その窓から覗く大きな月は、部屋の隅まで十分に照らしていた。

踏み心地の良い絨毯。綺麗に片付いた暖炉と、骨董品としての価値がある調度品や応接セット。手前の壁際には、大きな姿見が三方向から包むフィッティングゾーンが設けられて居るが、側には天蓋付きのベッドも有る。奥の扉の向こうはレストルームであると言う優月の説明から、元々この部屋は客室で有る事が窺える。

優月はチェストの上に章市が選んだ衣装を置き、章市に背中を向けベッドの方を向いて居る。

「私はこちらを向いておりますので、ご用の際はお声かけ下さい」


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