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僕ら× 1st.

第27章 牛、歩く --Mkt,Ar

彼女から事前に連絡がいっていたので和波さんは、すっとキッチンへ通してくれた。
用事があるからと、すぐに部屋を出ていく。

そういえば、和波さんの仕事って事務じゃなかったっけ?
フレックス勤務なのか?

ニートには見えねぇし、そんなわけねぇし。

あの若さでどっかの重役とか?

スーパーの袋を下ろして花野ちゃんに尋ねようと思ったのに、流しの下からザルやらバットを取り出して準備を始める彼女の横に居松が立つ。

「花野さん。俺、玉ねぎ切りますね」

「え?助かるっ!お願いね。あ、制服汚れちゃうから、エプロンして?」

居松に黒いエプロンを渡して、自分もベージュエプロンをつける花野。
俺たちにも黒いのをそれぞれ渡してくれた。

どうしてこんなに何枚も?と思ったけど、そっか。
宮石きょうだいは、伊織を含む男3人に花野1人だもんな。

花野と楽しそうにキッチンに並ぶ伊織が思い浮かぶ。

伊織…、もう身は魚に食われたろうな…。

あ、何かツンとくる…。
俺は無意識に鼻をすする。

「アル兄、泣いてるの?」

エプロンを持って突っ立っていた俺を、花野と居松が覗く。

居松の手元にはざく切りオニオン。
ああ、これのせいか。

「ちょっとシみただけだよ。お前、何で平気なんだ?」

「玉ねぎは、口で息しながら切るとマシなんです。あと、切る前から絶えず号泣し続けるといいかも(※あくまで個人の意見です)」

「絶えるとダメなのか?」

「そりゃ、硫化アリルに侵入されますよ」

だからって号泣中に玉ねぎ切るって、どんな泣きたいんだよ…。
それに、視界不安定で指まで切りそうじゃねぇか。

「侑生君、目を冷やす?」

野菜を洗っていた花野が、手を止めて俺を覗く。

「いや、どうもねぇ」

エプロンをかけた俺は、横にあったニンジンと削るヤツ…ピーラーというらしい…をつかんで、ショリショリし始めた。

と、カウンターから柊が俺に向けてスマホを構える。

「いや、お前。写すなよ」

「こんなアル、10年に1回しか見られねぇもん。撮っとかなきゃ。はい、笑って?」

俺はムスッとヤツにニンジンの尻を向けた。

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