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僕ら× 1st.

第21章 健闘 --Ar,Thk,Kn,Shu

途中からの私は聴覚のみだった。
流れる声に夢中になってすがりつく。
その意味を拾えないまま、大好きな声に身を漂わせる。
どこか遠い宇宙との交信のように…。

「こら、花野!寝てんじゃないわよ!」

「……っ」

ハンカチを目に当てて、見えないマコを見る。

「何?あんた泣いてんの?」

「だって、声が…伊織君だった……」

あのスピーカーの向こうに、伊織君がいたの。
私っ、吉坂先パイに申し訳なくて。

「あんたねっ!アル先パイが何を喋ってたかちゃんと聞いたの?」

「玉ねぎが好きだって……」

まさか食材が出てくるとは思わなくてっ。

「……あんた重症ね」

「まあ、小津。そんな怒んなよ。宮石の言う通り、声似てたよ」

再びザワザワとし出した教室で、耳を落ち着かせる。

「だからって、アル先パイは花野に伝えたかったのよ?」

「いや、違うと思う」

「何が違うのよ?」

「吉坂は自分の熱狂的ファンを牽制したんだ。宮石に絡むなって」

「……そうなの?」

「だと思うよ。こないだの格闘大会で宮石、睨みつけられてたし」

「そっか。流石、アル先パイ!ほら、花野っ!しっかりなさい!」

わ、依田君と喋ってるから安心してたのに、こっち向いたー。

「マコ、スパルタ~」

「もうっ、速水のことばっか考えてないで、前を見なさいっ!」

伊織君のことばっかり考えてるわけじゃないのよ、最近は。
吉坂先パイのこと…。
先パイにドキドキして……。

だけどそれは伊織君に重ねてるからであって……。
そんな自分がたまらなく嫌なコに思えて。

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