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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

***

衣替えから1月が経つ夏休み前。
私はそろそろ来年に向けて試練の時。
声楽の道を進むため。

部室前、ピアノの音がしているのに壁際に座り込む男。

「今日は入らないの?」

「好きに弾きたいんじゃないかと思って」

お、まともに口きいた。

「優しい曲だな」

流れてくるのはショパンのワルツ、多分。

「速水とあんたって、本当に兄弟?」

速水がいなくなってから知った事実。
吉坂とは去年、同じ委員会やったけど接点もなく、そのまま通過していく同級生やったのに。

だってこいつ、話しかけてもそっけない返事やし、視線をずらして早くその場から離れたそうにするし。
そのうち業を煮やして横にいる本條が口を挟む。

モテ男のくせに女子が苦手な朴念仁。

彼の中学時代を知るクラスメイトたちは、これでもマシになったと言う。

そんな吉坂には好きなコがいて、それが花野で、その彼氏は弟で……。
いつからなんやろう、こいつも大変やったんやな。

「そ。親の都合で名字が違うだけ」

違うだけって、普通やないやろ。

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