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僕ら× 1st.

第14章 P波 --Khs,Ior

「湖で一緒に虹を見たでしょ?キレイだったね」

彼女が弾いている間、目を閉じていた伊織が俺の心情を計るように見る。
自分のいない間に、彼女に男が近づいていたのが気になるか?

あれはフラレた後だったな。
中学2年、初夏の遠足。
ロッジから天気雨の虹に気づいた俺は、クラスの別れたキミを探して。
でも、大勢の雨宿り先にはいなくて。

若葉が鮮やかな湖の畔でひとり、小雨とさざ波の音をバックに空を見上げる姿を認めた時は、胸が踊った。

ウインドブレーカーのフードから出た髪が濡れるのを厭わないキミに、傘を差し出した。

気づいたキミは、微笑みながら静かに感謝した。
声を出せば架け橋が消えてしまうとでもいうような暗黙の了解。

雨が止んでクラスメイトたちが飛び出す声が聞こえるまで、ふたりでいた。

「ありがとう」

覚えていてくれて。
こんなに優しい曲を選んでくれて。

あの傘の下は彼女と俺だけの空間。

フラレた気まずさを引きずっていた俺に、自然に進む方向を示してくれた虹。

この感情もいつか消える時が来ると。
それまでは温かいも冷たいも7色の想いで満たしておこうと。

お前の知らないコマがあったっていいじゃないか。
彼女をひとりにするからだよ。

俺を窺う伊織に、"不安にさせたかよ?"と笑いかけた。

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