
こんな恋って、アリですか?
第3章 お宅拝見
「―― 悪趣味」
バスルーム。
洗面所兼脱衣所の入口で吐かれたひと言は
想定内だった。
浴室内部はシャワーブースとバスタブがあるだけで
至って普通だが、その外の洗面スペースは
奥行きのある壁面すべてが鏡張りなのだ。
入口であるスライド式扉を閉めると正に鏡の間だ。
照明効果を狙ったのだと聞いていたが、
入居当初はすべてさらけ出されるようで落ち着かず
片面にカーテンを取り付けたこともあった。
「作り付けだから私の趣味ではないが」
首筋に軽くキスをして、
彼を洗面台の横に座らせる。
「慣れれば悪くない。正面に居ながらキミの背中や
腰つきまで鑑賞できる」
シャツを落とすと、きめ細かな肌が露になる。
抱き上げた感触通り、無駄なく引き締まった
理想的な体躯だ。
「何かスポーツを?」
「うちは貧乏やったから、スポーツなんて高尚なもん
中学上がるまで見た事もやった事もなかった。
子供の頃は年上の男の子達に混じっていっつも
近所の裏山、走り回ってたんだ。すばしっこさじゃ、
誰にも負けへん」
鋭さがほとんど削がれた無防備に近い表情。
”喧嘩だって強い”と、得意気に話す顔は
幼くすら映った。
夜の街での印象とはまるで違う。
「ほ~う、そいつぁ頼もしい」
「それより――――」
瞳が一変し、再び妖しげな色香が灯った。
