
原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
ぎゅっと握られたシャツに皺が寄る。
一度下唇を噛んで一呼吸置いてから、より瞳を揺らしながらその口を開いた。
「…伝わってるから、相葉くんの気持ち…。
大丈夫だから…」
俺にしがみついて今にも崩れてしまいそうな表情をしているのに、伝えてくれたその言葉はしっかりと届いて。
その瞬間、にのちゃんの持つ内に秘めた包容力に触れたような気がした。
じんわりと沁み渡っていく心地に、また違う胸の高鳴りを覚える。
にのちゃん、俺…
絶対にのちゃんのこと、大切にするから。
もう、寂しい思いなんかさせない。
今までよりもっと、伝えるから。
大好きだよって。
離れないでって。
俺だけの、にのちゃんでいてって…
「…にのちゃ、」
「でもね、」
次々に湧き上がってくる想いを今度こそ伝えようとした時、目下のにのちゃんが目を伏せて小さく呟いた。
「ほんとはもっと、会いたい…」
…え?
「だめ…?」
窺うように見上げるその顔は耳まで赤く染まっていて。
途端に胸がきゅうっと締め付けられて、この距離感に今更我に返る。
至近距離で見上げられた瞳は不安げに揺れ動いて。
今の言葉やこの状況からして、やけに積極的なにのちゃんに心臓が飛び出てしまいそう。
「…俺もっ、にのちゃんと…一緒にいたいよ、」
「…うん、」
「もっとずっと…一緒に、いたい…」
じっと見つめてくるその瞳が一瞬煌めいて。
その輝きに誘われるように、ゆっくりと顔を近付けた。
ーコンコン、
突然聞こえた軽いその音に、唇が触れ合う寸前でピタッと動きが止まる。
『和也、開けていい?』
ドアの向こうから聞こえた声に慌てて体を離すと、真っ赤な顔のにのちゃんと目が合って。
…っ、もうっ…!
染まった頬を包み込み勢い任せにちゅっと口付けて、リュックを掴んで立ち上がった。
「ごめんっ、今日は…帰るねっ」
口を開けて固まったまま俺を見上げるにのちゃんを残し、勢い良くドアを開ける。
「あっ、し、失礼しますっ!」
同じく驚いたお母さんに一礼し、一目散に階段を駆け降りた。
自転車に跨り二階の部屋の灯りを見上げて。
僅かに残る唇の感触に浸りつつ、ぐっとペダルを踏み込んだ。
