
原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「…そういう質問には答えません」
「え~ひどいなぁ。教えてくれてもいいじゃん」
「いやです」
「も~…いるの?いないの?どっち?」
「答えません」
頑なに黙秘を続ける俺に、有岡くんもつまらなそうに拗ねた顔でこちらを見る。
「…いないんだったらチャンスなんだけどなぁ」
「…?」
頬杖をついて見上げながらそう言うとニヤッと口角を上げて。
「せんせー可愛いからさぁ…狙ってんだよね、俺。
あ、言っとくけどこんなこと思ってんの俺だけじゃないから」
…え?
そしてさっきの鋭い視線が注がれて、後に続いた言葉に思考が一時停止した。
「ここ男子校だからさぁ…
気をつけてね?せんせー」
『じゃあねー』と明るい声で教室を出て行った有岡くんに何も言うことが出来ず、ただその背中を目で追うしかなかった。
なに?今の…
どういうこと?
有岡くんが俺を…
嘘でしょ…?
いや他にもって…
え?なんで?
…なんで、俺なの?
誰も居なくなった教室に一人。
昨日から頭と心を一度に使い過ぎて、更にこんな衝撃発言を聞かされて一気に疲労感が圧し掛かる。
云い様のないざらつきが胸に広がり、目の前がサーっと暗くなって。
あ、気持ちわる…
急に吐き気がして立っていられなくなり、教壇の下にずるっとしゃがみ込んだ。
膝に組んだ腕に顔を埋め、細く息を吐く。
グラウンドからの威勢のいい部活の声が意識の隅で流れて。
早く職員室に戻らなきゃと頭では分かっているけど、体が言う事を聞かない。
だめだ…
誰か…
相葉くん…
相葉くん、たすけてっ…
「…ちょ、おいっ!」
沈みそうになった意識がその声でふっと引き戻された。
「おい!どした?大丈夫か?」
駆け寄ってきた足音と共に肩を揺すられ、重い頭を何とか持ち上げた。
「…っ、真っ青だぞ、顔。
ほんとに寝てねぇんだな…」
心配そうに眉を下げて覗き込む大野先生。
だめだ、立たなきゃ…
「…すみませ、」
「無理すんな、そのままでいいから…」
制するように、それでいて優しさのこもった声でそう言って、大野先生は俺が動き出せるまでずっと背中をポンポンと撫でてくれていた。
