
原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「せんせーさよならー」
「はい、さよなら」
HRを終え、ガヤガヤと生徒たちが帰っていくのを教壇から見送る。
今日はほんとに散々だった。
授業中も相葉くんのことが頭を過ぎって、板書の字を間違えてるのを生徒から指摘されてしまったり。
さっきも、教室に向かう途中ぼんやり相葉くんのこと考えててドアを通り越してしまったし…。
仕事中にこんな風になるなんて…ダメだな、俺。
昨日相葉くんから送られたメッセージは未読のままで、電話も無視したまま。
相葉くんは何も悪くないのに。
身勝手な俺の行動のせいで心配をかけてしまったし、きっと今も悩んでる。
…相葉くん、違うの。
これは俺の問題なんだ。
相葉くんに…
気持ちをちゃんと伝えきれてない俺の問題なんだから。
…とにかく謝らなきゃ。
生徒たちと挨拶を交わしながらも頭の中で今日の相葉くんのシフト何時だっけと思い出していると、教壇の前に急に人影が現れた。
「二宮せーんせっ」
「っ!」
驚いて少し体を引けば、その生徒は尚も教壇の机に腕を組んで前のめりでニコニコと見つめてきて。
「…なんですか、有岡くん」
眉を顰めて問いかけても依然楽しそうな顔は変わらない。
今年の一年生は全体的に元気がいいと聞いていたけど、この有岡という生徒は特にそれに当て嵌る。
『元気がいい』=『手を焼く』という意味だけど、うちのクラスには他にもそんな生徒がゴロゴロ居て。
今年から初めて担任になったのにいきなりこんなクラスを受け持つことになるなんて。
つい同じ立場の松本先生に早々と愚痴をこぼしてしまったほど。
いつの間にか教室にはもう誰も居なくなっていて、幼さの残る表情でジーっとこちらを見つめる有岡くんと対峙していた。
「…ねぇせんせーさぁ」
「……」
にこやかに俺を見上げるその瞳が一瞬鋭くなった気がして、思わず奥歯をきゅっと噛む。
「付き合ってる人いんの?」
「っ、え?」
思いがけないその言葉に心臓がドキッと跳ねた。
すぐ脳裏に相葉くんの顔が浮かんで。
動揺が顔に出てしまいそうになるのを必死に鎮めて、返事を待つその眼差しを見下ろしながら口を開いた。
